2009.06.15 Monday
56「蒼い炎」
麻雀プロとして生きて行くために、彼は上京してきた。痩躯の、穏やかな若者である。
彼は、温厚さの中に、静かな情熱を湛えていた。
地元で大学に通いながらメンバー業に就いていたが、麻雀への熱意を抑え切れず、故郷を飛び出してプロの門を叩いた。
勿論麻雀プロの生活は、平易な道ではない。
が、彼には一つ支えがあった。
どんな出会いがあったのか――、身寄りのない彼を拾ったのは、東京の雀荘で知り合った女性だった。
彼は彼女の部屋から勤めの店に通い、休日にはプロ活動に専念した。
彼女の存在が、彼の唯一の拠り所になっていた。
彼自身は、極めて真面目な子だった。
平素から細かい牌理を取り上げ、妥協することなく打牌の優劣を考えていた。
よく牌姿を店に持って来ては、打牌選択と変化の方向性を同僚と論じていた。
「この形で
「さあ・・場況で安い方の色を残すかな」
至極浅薄な返答をした私に――、やや不満そうな表情で彼は言った。
「この形は、5がくっついた場合の仮聴で、優劣があるんですよ」
「――ほら。共に仮聴を取ったとして、両面以上の変化を見れば、索子の形の方がいいでしょう?」
確かに、筒子の望ましい変化が
勿論これは瑣末な問題で、勝敗の要因に、深く関わるものではないかもしれない。
麻雀の本質は、押し引きとか場況とか、もっと大雑把な部分にある。
実際の和了り易さだけ見れば――、私が思慮なく答えたように、場の色の強さで決着することも多いだろう。
それでも彼は、そういった繊細な部分にこだわりを持って、プロの道を究めようとしている。
例えるなら、静かに煌く、蒼い炎を感じさせる子だった。
ところが、支えとしていた彼女の方は、やや奔放な性格だった。
気紛れに男友達に飛び火して遊び歩いては、よく彼を不安にさせていた。
ある日彼は、所属するプロ団体のリーグ戦で大敗を喫する。
挫折を抱えて帰宅した彼が眼にしたのは、彼女の部屋のベッドで眠る、彼女と、見知らぬ男性だった。
ありふれた話といえば、そうかもしれない。
ただ、人一倍繊細な彼が、その光景にどれだけ傷ついたのかは、想像に難くない。
彼は、二人を起こして罵倒することなどなく、静かに荷物をまとめ、部屋を出て行った。
彼を拾ったのも、彼女の気紛れのうちだったのだろう――。
そう悟って、消えかかった蒼い炎を必死に守った。
彼はこの春、念願のリーグ昇級を果たす。
まだまだ麻雀プロとしての道程は始まったばかりだが、周囲の評価も高く、将来を嘱望されている。
繊細であることは、弱みであり、強みだ。
蒼い情熱は確かに、彼を燃やし続けている。





