zeRoの麻雀ひとり旅
第二十一回:大阪府大阪市北区「まぁじゃんくらぶエイト」
私は一時期格闘ゲームに傾倒していた。自分がどの程度の実力なのか知りたい……もっと強い奴と戦ってみたい……そんな欲望を満たすだけのために他地域まで遠征してはゲームセンターを探したものだ。
「俺より強いやつに会いにいく」
フリー雀荘の根底もこの言葉に詰まっていると思う。家庭麻雀やセットだけでは飽き足らず、自分の雀力を誇示するため……そしてまだ見ぬ強者との出会いを楽しみにフリー雀荘に足を運ぶ人は多い。
私がフリー雀荘を巡っているのも、より強い人と打ちたいからだ。特に関西の雀荘は強者がとても多いように感じる。たとえ言葉をかわさなくとも、強者とは牌で会話できる。
(この動きは意外だったろ?)
(効かねぇよ、さぁラウンド2だ)
暇さえあればゲームセンターを駆けずり回っていたころを思い出す。
――この日もそうだった。
JR天満駅を降りて徒歩数分。
今にも泣き出しそうな空に焦っていたが、お目当ての雀荘「エイト」はすぐ見つかり、私はホッと胸を撫で下ろした。
3Fまで上がったエレベーターのドアが開く。
あれ、場所は合っていると思うのだけど、卓が見当たらない。
果たしてここは麻雀屋なのだろうか。
とりあえずスリッパに履き替え、店内を進む。すると…
突き当たって右に卓はあった。
なんじゃこりゃあ! そこいらの雀荘が3つは入りそうな広さである。
「いらっしゃいませー!」
広すぎるおかげで店員さんも今気づいたようだ(笑)
広い待ち席の一角に腰を下ろし、ルール説明を受ける。
一通り聞いたが、これまで打ってきた関西サンマとほとんど変わらない。
珍しいな……と思ったのが、クイタンがあることくらい。
ちょうど説明が終わった頃に卓が欠けたので、すぐに案内された。
「よろしくお願いします!」
いつものように元気よく挨拶をする。
さて、私は初めての雀荘、慣れないルールで打つ時、まず卓内で一番強い人をみつけることからはじめる。その人の打ち筋に注目し、押し引きや立ち回りを学ぶのだ。
そしてその強者はどう探すか?
それは所作や手付きを見ればすぐわかる。
強者は決して「華麗な所作」をしているわけではなく、「無駄のない動作」をしているのだ。
対面の男がまさにそうだった。
最短距離でのツモ動作。そしてルールに最適化された思考を用い、ほとんどノータイムで打牌を選ぶ。
親指で置くように切るのだが、勝つために華麗さはいらない。置くように切れば牌山をこぼすような事もないし、音も静かだ。何より消費カロリーも最小限ですむ。
見た目は不格好だが、マシンのように模打するその男をみて、私は完全にマークを絞った。
実戦
私は、南場の親で仕掛けていた。
ドラ
ツモってきたを加カンしたところ、新ドラがそのになった。
同巡、をポンしていた対面の手が止まり、小考ののちにそのをツモ切ってきた。
つまりは加カンをしなかった……というわけだ。
(なるほど、カンをしないという事は自信のない手牌……イーシャンテンかな。テンパイだったとしても愚形だろう)
そう考えるのが普通である。
(さぁね)
一瞬対面が目でそう笑ったように見えた。
そして2巡後に上家が切ったに、対面が声をかけた。
ロン
(え?!好形?)
牌姿をみて驚いたが、すぐに意図を理解した。
は私の現物である。
好形だけにリンシャン牌を見てみたい気持ちはわかるが、「ランダムのリンシャン牌」と「ドラがモロノリした私の現物である河」、どちらがの出現率は高いかは火を見るより明らかだろう。
そして、その河のを捉えるには安全にテンパイを維持しておく必要がある。
リンシャンから危険牌を持ってきたら、勝負にいきづらいし、通ったとしても他家からの警戒度が高まってしまうだろう。
より安全に、より多く河を見る抽選を受ける――
これが自分のアガリ確率を最大限高める選択だと対面は判断したのだ。
簡単なようにみえて、難しい選択だと思った。
単純な押し引きの他に「自分がどうみえているか」を総合的に判断しないといけないからだ。
(やるね)
(当然だろ?)
牌で会話を続けていると、アガリトップのオーラスでこんな手になった。
ツモ ドラ
ついを切ってしまいそうだが、ツモでピンフのテンパイを逃すのはやってない。打でパンパンに構える。
ツモ ドラ
何切る?
今度はを切ってもの受け入れが残る。
打が正解だ。
ツモ ドラ
どんどんややこしい形になってくる。
ピンズはの二度受けに、・のエントツ形もある受けの広い形になった。
打としてソウズの二度受けを払う。
喰いタンのあるルールではのポンに備えるのは重要だろう。
「ロン」
ロン ドラ
このようにサンマは牌の種類が少ないぶん、流動的に変化する手牌を正確に運用していく必要があり、形に強くなるためのいいトレーニングになる。
まとめ
さて、初回はトップをとれたのだが10回ほど打って、ちょっと負けていただろうか。
しかし、対面との激しい闘いに私はとても満足していた。
何より、店員さんが気さくでとても面白い。
そんな店員さんがご飯をすすめてきたので、日替わり定食を注文した。
オシャレな牛丼だな…と思ったが、これがめちゃくちゃ美味しかった。
味噌汁と漬物もついてきて、立派な定食だ。
なんでもエイトでは厨房担当だけのスタッフがいて、ご飯には相当な自信を持っているらしい。
「ごちそうさまです。いくらですか?」
財布を出そうとしていた自分に店員さんが笑顔で答える。
「フリーを打たれた方は無料なんですよ」
二度、びっくりした。
あまりのおいしさと、それが無料であることに……だ。
更に驚きはこれだけにはとどまらない。日替わり定食、というくらいだから、ある程度の種類のメニューが一週間で繰り返されるものだと思っていたところ、なんと本当に「日替わりメニュー」なのだ! すなわち、毎日毎日料理が違うということ。
一部であるが、その料理の写真を以下に並べていく。
美味しいご飯で腹を満たし、大満足でエイトを後にしたのだった。
評価
刺激度 ★★★★
清潔感 ★★★★★(広い!)
サービス★★★★
無料ご飯の美味しさ!★★★★★
(なお「刺激度」は動くお楽しみチップを元に 新宿ルールを★★★★★、学生でも安心して遊べるルールを★★★、ノーレートルールを★…として表現)