zeRoの麻雀ひとり旅 ~第六回:大阪府東大阪市「俺の雀荘」~
zeRoの麻雀ひとり旅
第六回:大阪府東大阪市俺の雀荘
前回の「タオ牌牌」でボロ負けしたzeRoは打ちひしがれていた。
とぼとぼと駅の方へ戻るように歩いていると、ひときわ目立つお店に気付き、ふと足を止める。
「俺の雀荘」
まさか雀荘とは思わなかった。なんだこのインパクトのある外観は。
――その昔、名古屋に「俺の味」というパスタ屋があった。
そこの店主が頑固なのか、メニューはミートパスタのみで、オープンからラストまでモーニング(パンと飲み物)がつき、完全禁煙である。
極め付きには完食しないと怒られる……という、まさに頑固オヤジがやっているような独特のお店だった。
現在では同名で店主が変わっているが、そんな今でも目を閉じればあの味を思い出す
たしかにあのミートパスタは旨かった――
負けたままでは名古屋に帰れない。
興味を惹く外観と、火が戻った闘志と。
私は気が付いたら「俺の雀荘」のドアを開けていた。
「いらっしゃい」
マスターなのか髭をたくわえた中年の男性が私の来訪に気付き、声をかけてくれた。
年季の入ったソファーに腰を掛ける。
おしぼりとお茶を頂いた後、初めての旨を告げると新規説明をしてくれた。
- 35000点持ちの40000点かえし
- 完全先付の喰いタンなし
- 5pと5sは全部赤
- ハイテイは最後まで(ドラ表示牌ギリギリまでツモる)
- 華牌アリ
なるほど、タオ牌牌とほとんど変わらない。いわゆるオーソドックスな関西サンマというやつだった。
なお、華牌はこちらだ
少しプリントが薄くなっているが、「俺」「の」「雀」「荘」と書かれている。
そして「俺」だけが金文字なのだが、これが一発裏と合わせて祝儀対象になる。
「タオ牌牌」もそうだった。
これがこの地元で愛されてきた、サンマのバランスなのかもしれないな…
などと歴史を感じていると、さっそくメンバーの入っている卓が終わり、そこに案内された。
「よろしくお願いします」
起家スタートだった私は、決意も新たにサイコロボタンを押した。
いや、パッコロボタンである。
初めて見る方も多いかもしれない。関西サンマでは主流となっている「パッコロ」と呼ばれるサイコロである。
正十二面体というだけでも目を引くが、そこに「東」「南」など書かれている。
もうひとつは「二」から「十二」まで書かれたパッコロの2つを使用する。(普通のサイコロの場合も多い)
こう書くとややこしいが、使い方は非常にシンプル。
例えば「南」と「六」の目が出たら、南家の6トン目から配牌をとる…という意味だ。
これは通常の取り出しよりわかりやすくて初心者もとっつきやすいと思う。
なんてことないが、普段と違う風習のひとつひとつにワクワクする。これが旅打ちの醍醐味でもある。
さて始まった。
今回は、私が関西サンマをそれなりに打ち込んできた上で、感じた攻略法を書いていこうと思う。
①速度感が重要!
起家で始まった私は、6巡目にこんな手牌になっていた。
親番でそれなりの勝負手である。しかし私はノータイムで安全牌の
対面のサラリーマン風の男の河がこうだったからである。
今、共通役牌の
ただでさえ
四人打ちでは自分に手が入ったら、基本は相手を気にせずにまっすぐ打つのが鉄則だ。
相手はテンパイかどうか不明だし、放銃しても安い事が多いからである。
しかしサンマは違う。
使っている牌の種類が少なく、テンパイ速度が四麻と比較してかなり違うからだ。
そして華牌や赤がある分、安いという事が少ない。
それだけシビアに相手との速度感を測り、押し引き判断をしないといけない。
この手が成就するには、
必要があり、三段階抽選と言える。
相手のテンパイの可能性が高いこの場面では、いくら親でも撤退するべきだと言えるだろう。
さて、
声高らかにリーチ! と行きたいところだが十巡目である、どうする?
②中盤の役アリは基本ダマテン!
サンマと言うと、リーチのぶつけ合いや大物手の応酬など、派手なイメージがかなり強い。
特に関西サンマはドラ表示牌の手前までツモが続くため、テンパイしたらなんでもリーチに行くのが得に思える。
が、実際はそんなことはない。地味でシビアなリーチ判断が試されるのだ。
特に強者はダマテンの使い方が上手い。これは間違いない。
リーチを打つと、自分の捨て牌を利用して他家にアガられるかもしれない。
出るはずだった牌を止められてかわされるかもしれない。
入れ替えができずに放銃してしまうかもしれない。
確実にアガリ確率は下がるだろう。
その見返りに打点が上がればいいのだが、何度も言うように、サンマは華牌や赤で自然と打点のついてくるケースが多い。
四人打ちのように2000点の手をマンガンにするためにリーチを打つのは多少のリスクがあっても得の方が大きいと考えられるが、マンガンある手をハネマンにするためにアガリ確率を下げる行為は微妙なのではないか……という話である。
特にピンフ手のケースである。サンマはツモとピンフの複合しないルールが主流なので、さらにダマテン寄りになる。ピンフドラ3の手は、リーチを打っても、裏か一発がない限りハネマンにならない……ということだ。
打点は勝手についてくるので二の次。
アガリ確率を下げるようなリスクをなるべく犯さない。
これが関西サンマの極意だと言える。
「ロン」
対面がツモ切った
見る事はできないが、対面の待ちは
「はい」
サラリーマン風の男は気持ち良く18000点を払ってくれた。
やわらかい雰囲気だったタオ牌牌の後だからか、俺の雀荘は余計な会話がなく、鉄火場のにおいがした。
しかしお客さんやメンバーさんのマナーはよく、勝負そのものを楽しめる印象があった。
続く一本場、気を良くした私の配牌はこうだった。
イマイチな手だ。
四人打ちだとホンイツを見て打
しかし私は
③ホンイツは見るな!
これが最後の極意である。
四人打ちで最強の役は? と聞かれたら私はホンイツと答えるだろう。
それだけ難易度の割に見返りが大きく、さらに守備力が高い。
しかしサンマにおいては、話は別だ。ホンイツは足かせになることが多い。
特にこの手のようにブロックが足りない段階で決め打つのは危険である。
チーができないことが大きく、有効牌を狭めるデメリットが大きいのだ。
そもそも打点はしつこいくらい言うように勝手についてくるので、ホンイツにするメリットが小さい。
いかにもホンイツというような手牌以外は普通に進めるのが吉なのである。
不格好ながら最速のマンガンテンパイを入れ、これをツモって6000は7000オール。
今回こそはいける……!
そう思っていたが、三時間後のzeRoはノートップで迎え、力尽きるようにラス半を入れていた。
地獄――
麻雀を打っていれば、当たり前のように訪れるどうにもならない状態。
勝負手のめくりあいに必ず負け、押して放銃し、引いてツモられる。
私はこれまで、天鳳だけでも7000戦、実戦では何万戦と打ってきたので、酸いも甘いも慣れている。
……ハズだった。しかし、負ける度に身を焼かれるような思いに駆られるし、勝てばこの世の全てを掴んだかのような万能感に包まれる。
私の人生は麻雀が全てであるし、この気持ちの浮き沈みからは一生逃れられないのかもしれない。
そんなことを思いながら帰りのホームでシュークリームを買った。
脳が糖分を欲していたのであろう。
終電に乗り込んだzeRoは、梅田のカプセルで泥のように眠ったのであった。
まとめ
私の負け報告ばかりで、ほとんど俺の雀荘さんのレポートになっていない気もするが(笑)私がやめるころにはフリーは2卓立っていた。
あまり店内を覚えていないということは、それだけ勝負に集中できる環境だったということだろう。
ガンコなマスターがいるわけではなかったが、関西サンマをマナーよく楽しめるお店――それが「俺の雀荘」の印象である。